お得意様各位
ミャンマーチーク販売株式会社
代表取締役 臼井 成美
ミャンマー連邦共和国は2021年2月1日の国軍によるクーデターにより、文民政府から国軍による軍事政府になりました。以降、国軍と市民との対立が激しくなり、混迷が深まるばかりです。
欧米諸国の関心はウクライナ紛争に偏り、ミャンマー問題は国際社会から疎外された感があります。
日本の1.8倍の国土を有し、肥沃な農地と44%(29,561,717ha)の原始林に覆われた天然資源に
恵まれた、将来性豊かな、仏教国の人々に、微笑みは、何時戻るのでしょうか
新年に際し、行方(ユクエ)を考えました。
1;国軍がクーデターを起こした背景
スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が2020年11月の総選挙に憲法改正を公約に掲げ圧勝した事が起因です。現在の憲法はかつての軍政下で起草された憲法です。上下両院議席の4分の1が「軍人枠」として軍人に割り当てられていましたので、国軍は国防・国境担当大臣や内務大臣等の閣僚任命権を持ち、国政に大きな影響力を持っておりました。
総選挙でNLDが圧勝して、憲法が改正されば国軍の影響力が減じられる事になる為、今回の総選挙には大きな不正があったと称し、再選挙に持ち込もうと画策したのですが認められず、力に物を言わせ、クーデターに至ったのです。
2011年3月に23年間続いてきた軍事政権が民政移管により民主化政権が誕生しました。
国軍の翼賛団体である連邦団結発展党(USDP)が政権を担いましたが、テイン・セイン大統領の大胆な民主化、経済開放政策により、『アジアの最後のフロンティア』と呼ばれる新興国になりました。その 5年後、2015年の総選挙でスー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が多数派になり、文民政権が誕生したのでしたが、軍政下で制定された憲法では国軍の影響を排除出来ず2020年11月の総選挙で国軍の影響力を減じる憲法改正公約に掲げ、圧勝したのでした。
2:ミャンマーの現状
スー・チー氏率いる国民民主連盟は、2020年4月に国民統一政府という独自政府を作り国民防衛隊を結成し、少数民族武装組織と連携して国軍に抵抗する武装勢力となり、実質的に内戦状態に陥っています。現在の戦闘はタイやバングラディッシュの国境付近に限定されていますが、何時、都市部に飛び火するやも知れません。
①ヤンゴン市内の情勢
クーデター直後はZ世代と呼ばれる20代後半の若人を中心としたデモやストライキが行われましたが、現在は街頭デモは見られなくなっております。公務員の職場ボイコット不服従運動も少なくなり、行政の混乱は治まっていますが、窃盗や強盗が横行し、夜間は一人で外出出来ない状況になっています。市内循環バスには防犯対策として防犯カメラが設置されました。
②経済状況
インフレ率が高く年間14.1%になっています。クーデター前の2020年1月に比べると4倍です。現地通貨(チャット)が安くなっていますので、市民の生活は一層苦しくなっています。
2021年2月は1us$が1,330チャット(100チャットは8.3円)でしたが、現在は1us$は3,100チャット(100チャットは4.5円)になっています。即ち、チャットの価値が半分以下になっているのです。多くの生活物資が輸入製品である市民生活はチャットの下落とインフレによりクーデター前の、2020年1月に比べると生活が4~5倍苦しくなっていると言っています。
非常に悲しい事ですが、7月以降、将来を悲観した、自殺者が増えています。
③政治
2022年4月のASEAN首脳会議で国軍トップのミン・アウン・フライン司令官に、『暴力の即時停止・全ての当事者による対話・ASEAN特使の仲介・ASEANによる人道支援・特使と全当事者の面会』の 5項目を提示し合意に至りましたが、実効性は乏しいようです。
欧米諸国は経済制裁を強化しておりますので、ミャンマーが国際的に孤立しつつあります。
日本はASEAN諸国の中でミャンマーへの経済支援が最も多く、影響力がありますが、国軍に圧力をかける事には消極的です。日本政府がミャンマー国軍に厳しい制裁、圧力を掛けない理由は、ミャンマーを更に中国に傾かせない為と言われています。ミャンマーは農業立国であり、食材の輸出国です。又、天然資源に恵まれ、開発ポテンシャルが高い国です。日本は食糧自給率も低く、農業立国は大切にしなくてはなりません。開発近代化に際しては日本企業が参画出来るビジネスチャンスもあります。日本政府は日本から離反させ中国に傾倒するような事態は避けたいのです。欧米諸国が経済制裁を強化するかたわら中国はミャンマーへの支援を一層深めています。
中国にとって、ミャンマーは戦略的に非常に重要な位置にあります。ベンガル湾に面したヤカイン州の港から中国、昆明市迄、石油とガスのパイプラインを敷設しました(*添付地図参照)高速道路も鉄道建設も計画されています。国際紛争が勃発しても、マラッカ海峡を通る事無く、陸路で石油・天然ガスを中国内陸部に輸送出来る仕組みを確立しました。輸入コストの多大な削減にもなります。
又、国軍はロシアの国営原子力企業「ロスアトム」と電気自動車用のリチュームイオン電池を生産する工場建設計画を協議しています。その他、原子力エネルギーの平和的利用に向けた協力ロードマップや小型モジュール炉の事業化調査に関する覚書等多くの協力文書を交わしています。
やがて、微笑みの東洋の仏教国は、中国・ロシア化されるのではないでしょうか?
日本政府がインドと手を携え、ミャンマーをASEANの仲間として支え、国際社会に戻すよう努力してくれるよう願っています。
④新しい潮流
国連が12月21日に、ミャンマー国軍に対し『即時暴力行為の中止・拘束している反政府 活動者の解放』を初めて決議しました。又、米国が反政府活動をしている人々に、教育や 健康・トレーニング等、武器以外の様々な支援が可能となる法律(Burma Act)を近日中に承認する見込みです。米国による新たなサポートが可能になれば『新しい文民政府』樹立の契機になるのではと期待されています。
1月4日、ミャンマーは植民地独立から75周年になります。国軍はこの記念日に受刑者7,012人に恩赦を与え、釈放すると発表しました。2021年2月のクーデター後に拘束された政治犯が多数含まれるとの事です。残念ながら、汚職に関与したとして33年の刑期を言い渡され ている、民主化指導者のアウンサンスーチー女史は対象外との事ですが、スーチー女史の解放を迫る国際社会の批判をかわす為、自宅軟禁に切り替えるとの観測が浮上しているようです。
ASEAN首脳会議決議と国連決議に沿った前向きな措置であれば、ミャンマー危機を平和的に解決する道を探る契機になるのではないかと期待しています。